北海道出身・在住だった宇江佐真理先生の作品です。
すでにお亡くなりになられていますが、残された作品はどれも面白いだけでなく、どこかに故郷である北海道を散りばめて慈愛に満ち溢れる作品ばかりです。
この作品は短編集ではありますが、どれも面白いものばかりで、その多くは当時の文化や故郷の歴史を紡いだものですが、史実をベースにしているにしてもその創作力は凄いの一言に尽きます。
葛飾北斎の娘、お栄を題材にした「酔いもせず」は他にも幾人かこの方を中心に書いた作品がありますが、その心情が生々しく描かれており創作とはいうものの、惹き込まれます。
松前藩の歴史を紡いだものもあり、その中に蠣崎将監広年の視点を中心に記された物語があります。この頃の松前藩を題材にした作品は、数多くの小説家により取り上げられており、それぞれの作家による視点で記されています。私の知る非常に狭い範囲ではありますが、蠣崎将監広年という人物像に関しては皆さん松前への帰藩に関し自身の描いた絵を通じて尽力された方という点、それで尚且つ好人物であるという点が共通しているようです。
その他、この短編集の冒頭につは遠山の金さんが放蕩していた際にできた息子を描いた作品があります。
いやどれもみな人の心にある慈愛や希望、そして葛藤が巧みに表現されており、短編とは思えない重さが感じられます。
巻末は、蠣崎将監広年が生きた同じ頃の松前を別の人物の視点から記した作品、シクシビリカ。
これは同じ時代を生きた冒険家である最上徳内の目を通した物語です。描かれる人の視点によって、さまざまな角度からだけでなくその時代の事情や愛憎、希望などを描く宇江佐真理先生はやはり凄い方です。
もっと長く生きて素敵な作品を世に送り出していただきたかったですねぇ。