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11月, 2022の投稿を表示しています

宇江佐真理 著 うめ婆行状記

  奇をてらうことなく、地に足をつけて、ありふれた日常の中から人情の機微を掬い取るようにして小説を紡いでいたと評される宇江佐真理センセの未完の作品です。 町奉行所の役人だった夫がポックリと逝き、それまでひとり思い描いていたひとり暮らしをはじめたのは良いものの、穏やかな日を送る暇もなく日々何かの騒動に巻き込まれて追い続ける主人公「うめ婆」を書き綴ったものです。 残念ながら、完結に限りなく近いところで途切れてしまっている。 闘病生活の中、連載途中であったものの書き続けることができなくなったのだろう。 いろんな作家の方の書籍を読んでいると、執筆途中でお亡くなりになられた方の作品に出逢う事がある。 好きになって読み続けていた方の作品が未完のままで出版されるのは、一行でも良いから読みたい読者としては非常に喜ばしい部分もある。 しかし終わりまで読み終えないうちに途切れてしまった最後の一文字を見た瞬間、悲しみや悔しさが覆い被さってくる。 その方の新作を永遠に読めないと言う事だけでなく、最後まで書ききれなかった作者の想い、いや私自身最後まで永遠に結末を読むことのできないということに悶々とするのだと思う。

上田秀人 著 勘定侍 柳生真剣勝負(四)

 柳生の殿様が手をつけた女性の子供は超一流の大阪商人に育った。 柳生家が大名になったは良いが、金勘定ができず借金まみれの侍世帯を立て直すべく無理やり呼び出された主人公「一夜」が活躍する物語。 この方の物語に出てくる登場人物は、どれもハラがあって怖い…読む人によっては人嫌いになりそうな気がします。 しかし都会に生まれ育ちそれが当たり前の方、または田舎から転勤で都会に出てきて他人を押し除けてまで出世したいというような人物を見ていると、今も昔も人の考えることは同じだな、そんな感じがするのは気のせいでしょうか。 その辺りを割り切って、またそのような作品なのだと分かってくると面白い作品です。 決して悪い意味ではなく、作品としてはとても面白いという意味で。

佐伯泰英 著 一人二役 吉原裏同心 38

  2022年10月、ようやく発売された吉原裏同心の最新刊です。 シリーズ開始当初は裏同心として活躍した主人公も、吉原の元締めのような立場になってしまい四苦八苦しているところは、どこかサラリーマンのシリーズ物のアレを思い起こさせてしまいます。まあ、その姿も現代のサラリーマンにはウケるのかもしれませんが、斜めに構えてしまう私は「やはりナカの人材ではダメなのか」などと思ってしまったり... 他の作品はどれも完結したり、終わりに向けて走り出しているのに、この作品だけは佐伯センセの身体が動かなくなるまで書いていくぞ?!的な感じを受けますが、もしかするとこの作品を中心に、他は短編や読切になっていくのかも... 作品自体はとても面白いと思っていますが、楽しむだけの目を持たなくなってしまった自分に若干の苛立ちを覚える今日この頃です。